リナ・ボ・バルディ展
北青山の駐日ブラジル大使館は日系人建築家による円弧を描いた建物、南米らしく原色を多用した配色などでこの辺りでも目立つ建物です。
▲このブラジル大使館でイタリア出身ながらブラジルで長く活動した建築家、デザイナーであるリナ・ボ・バルディ(Lina Bo Bardi)の展覧会が開催されています。
建築家として知られる彼女が建築の一部として手がけた椅子や家具のオリジナル作品、そして今でも作り続けられている復刻家具が展示されています。
会期は2023年5月25日まで。展覧会自体も興味深いものですが、日系ブラジル人の建築家やアーティストにゆかりのあるブラジル大使館自体も併せて見られる貴重な機会です。
会場は駐日ブラジル大使館の展示室ですが、事前の予約も不要、入場料は無料。特に身分を証明するものも不要。フラッと訪れてそのまま見学することができます。
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駐日ブラジル大使館
ブラジル大使館は北青山、キラー通りからちょっと入った場所にあるのですが、東京にある各国大使館の中でも飛び抜けてモダンで格好良い建物です。
ブラジル国内にある彼が手がけた建築物にはこのような円弧が目立つものが多いようです。
ルイ・オオタケの母親は若いときにブラジルに渡り、その後100歳を超えても制作活動を続けたアーティストのトミエ・オオタケ(大竹富江)です。
いつもは黄色いペンキが塗られている半円状の壁ですが、今はブラジルの女性壁画家でビジュアルアーティストであるハンナ・ルカテッリ(Hanna Licatelli)の作品が描かれています。
女性をテーマにした作品が多い彼女の作品はブラジルでも高い人気があるそうです。そして渋谷駅近くのマークシティの通路下の柱に描かれている作品もハンナ・ルカテッリの作品です。
そのマークシティの「シブヤ・アロープロジェクト」の作品とブラジル大使館の壁画はともに2022年11月に本人が来日して描いたもの。
ブラジル大使館の壁画は一時的なものでしょうから、パブリックアートとして見られる今のうちにじっくり見ておきたいです。
▲ブラジル大使館の壁画は不定期に新しいものに描き直されています。ブラジル大使館の近くを通りかかることがあったら、壁画だけでもチェックしておきたいですね。
2016年のリオ・オリンピックの都市にはブラジルのストリート・アーティストであるエドゥアルド・コブラが来日してこんな壁画を制作していました。
左はアントニオ・カルロス・ジョビン(ドン・ジョビン)。ボサノヴァの創始者とも言える作曲家でミュージシャンです。右はジョビンと組んで多くの作詞を手がけた詩人で作詞家のヴィニシウス・ヂ・モライス。
リオ・オリンピックの大会マスコット、ビニシウスは彼の名前が由来ですから、オリンピックの年のブラジル大使館にふさわしい二人です。
▲館内ホールの大きなガラス窓に描かれているのは大岩オスカールの作品です。これは外からも鑑賞できますからアート好きには見逃せませんね。
ブラジルらしく外壁は鮮やかなオレンジ(いつもは壁画が描かれていますが)とブルー。サッカーのブラジル代表の色と似ていますが、館内もやはりオレンジとブルーで統一されています。
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大使館内の展示会場と階段
展覧会の際は訪問目的を告げれば特にチェックもなく館内に入れます。
▲館内に入って左側に回り込むと展示会場である地階へ降りる階段です。
円弧が使われ、これもやっぱり設計者のルイ・オオタケの意図が込められた意匠なのでしょう。
地階へ降りる階段の上には「マナブ・マベ 文化の広場」と「オオタケ・トミエ スペース」という案内板が出ています。
展覧会の会場はこの2つのスペースと映像上映用のホールになります。
マナブ・マベは日本名はマナブ間部。日系ブラジル人の画家で展示室「マナブ・マベ 文化の広場」には数は少ないですが彼の作品が展示されています。
オオタケ・トミエは前述した女性アーティスト。その息子がブラジル大使館を設計しています。彼女の作品も「オオタケ・トミエ スペース」に展示されていますし、仙石山の森タワーにも巨大なパブリックアートが常設展示されているので目にしたことがある方も多いでしょう。
これを降りたところが展覧会場です。
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リナ・ボ・バルディとは
リナ・ボ・バルディはイタリア出身で第二次世界大戦後にブラジルに移住し、建築家、デザイナーとして活躍した人です。
▲建築家として「サンパウロ美術館」や「SESCポンペイア文化スポーツセンター」といったブラジルの代表的な近代建築で知られています。
ブラジルの建築家というオスカー・ニーマイヤーという巨匠がいますが、彼と並んで評価される建築家です。
地面から持ち上がって広いピロティを持つ美術館。ずっとオスカー・ニーマイヤーなんだろうと思っていたのですが、実はリナ・ボ・バルディの設計だったんですね。
リナがデザインした椅子
そんなリナ・ボ・バルディは建築と併せて様々な椅子もデザインしています。
その椅子と彼女が設立に関わった「バラウナ工房」が現在も製作している復刻版の椅子が今回の展覧会のメインです。
▲これは「マナブ・マベ 文化の広場」にずらっと展示されるリナがデザインしたオリジナルの椅子。
手前に4脚並んでいるのは「SESCポンペイア・チェア」。合板を4枚組み合わせたシンプルな形状です。
▲他にもジラファ・バー・スツールなど代表的な椅子が展示されています。
▲リナ・ボ・バルディは日本文化にも関心が高く、和の要素を感じさせるデザインもあります。
これはデッキチェアですが、これと同じものが丹下健三の自宅でも使用されていたそうです。
もしかしたら丹下健三または猪熊弦一郎のデザインである可能性もあるそうです。
左は合板を使ったオリジナルのビンテージ物。右は1枚板から製作している復刻版。
復刻版の方は日本向けの商品で、そのため日本人の体型に合わせて脚が3cm短くなっているそうです。なるほど、ブラジルの人の方が身長も高いし足も長そうですものね。
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バラウナ工房の復刻版
展示会場の奥が「オオタケ・トミエ スペース」。
こちらではバラウナ工房による復刻版の展示が行われています。
▲バー・スツールなどの復刻版や別のデザイナーによるブラジル家具などが展示されていて、一部の復刻版は実際に座ってみることもできます。
▲バラウナ工房のロゴが入った木製の輸送用梱包ケースに収まったジラフ・チェア。
こうやってスタッキングできるようです。
ここで紹介した以外にも多くの家具が展示されているので、あまり馴染みのなかったリナ・ボ・バルディの業績を知るだけでなく、ブラジリアン家具そのものも見ることができる展示会でした。
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駐日ブラジル大使館の場所とアクセス
さて、会場となるブラジル大使館の最寄り駅は銀座線の外苑前駅。
スタジアム通りを国立競技場の方に向かい酒屋さんの角から熊野通りを進んで2つ目の角を左。駅から徒歩5分弱です。
あるいは南青山3丁目の交差点から外苑西通り(キラー通り)を千駄ヶ谷の方に歩いて最初の角を右に入ったところ。このルートでもやはり駅から徒歩5分弱です。
近隣にコインパーキングは少ないので電車などでの訪問がベターです。
ブラジル大使館への入館方法
あっけないほど簡単です。
▲このブルーの壁のところに守衛所があるので用件を告げれば入れます。身分証明書、持ち物チェックなどはありませんでした。
日系人建築家が設計したモダンな建物、日系アーティストの名を冠した展示室で開催されるイタリア出身建築家、デザイナーの展覧会。いかにも多民族国家ブラジルらしいシチュエーションです。
リナ・ボ・バルディというあまり知られていない建築家ですが、こうして彼女がデザインした家具を実際に見たり、展示されている建築資料を読んだりするとブラジルの近代建築の一端が伺えオスカー・ニーマイヤーだけじゃないのだということが良く分かる展覧会でした。
外苑、キラー通りに行く機会があったら1時間だけ時間をとってブラジル大使館ものぞいてみてください。
リナ・ボ・バルディ展 基本情報
名称 | LINA BO BARDI 1914 – 1992展 |
会場 | 駐日ブラジル大使館 |
会期 | 2023年5月9日(火) 〜 5月25日(木) |
休館日 | 土曜、日曜 |
開館時間 | 11:00 〜 17:00 |
入場料 | 無料 |
予約 | 予約不要 |
駐日ブラジル大使館 基本情報
施設名 | 駐日ブラジル大使館 |
住所 | 港区北青山 2-11-12 |
最寄駅 | 外苑前駅 |
渋谷のハンナ・ルカテッリ
ブラジル大使館外壁を飾る作品を描いているのはブラジルの女性アーティスト、ハンナ・ルカテッリですが、彼女の作品は渋谷のとても目立つ場所にも描かれています。
▲渋谷マークシティの橋脚4本に「「シブヤ・アロープロジェクト」の一環として彼女の作品が描かれているのです。災害時の最寄りの避難場所を矢印で指し示しておこうというプロジェクトのアイキャッチとなる作品を描くアーティストの一人として彼女のチョイスされたようです。
JR渋谷駅とマークシティー、道玄坂方面への信号のところなので多くの人が目にしたことがあると思います。
▲日本のダイバーシティの手本となるような街づくりを進めている渋谷区なので、こうした場所にユニバーサルなランゲージで避難場所を示すものを敢えてブラジル人女性に描いてもらったことに意味があるのだと思います。