”包まれた凱旋門” – クリストとジャンヌ=クロードが60年越しで実現した悲願を六本木21_21で追体験する(閉幕)

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クリストとジャンヌ=クロード

現代芸術家のクリストとジャンヌ=クロード夫妻の悲願のプロジェクト ”包まれた凱旋門” のドキュメントと過去の作品を振り返る展覧会が2人の誕生日でもある2022年6月13日から六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催されました。

既に閉幕していますが、でも待ちに待ったという言葉が似つかわしい展覧会です。

彼らの作品は一時的(Temporary)なもので、展示期間の2週間ほどで撤去されてしまいます。ですから作品自体はこの展覧会にはありません。そもそもパリから凱旋門を借りてくる訳にはいきませんしね。

その代わり、豊富な映像、資料などから ”包む凱旋門” プロジェクトの全容を追体験できるような展覧会構成になっています。

▲サハラ砂漠の砂丘を駆け下りるクリストとジャンヌ=クロード。カッコいいです。この2人は1935年6月13日(つまり展覧会の初日)生まれ。誕生日が同じです。

クリストはブルガリアで、ジャンヌ=クロードはフランス人の両親の元、モロッコのカサブランカで生まれています。

その後1960年代から共同で ”包む” オブジェに代表される作品群を制作し続けてきました。ジャンヌ=クロードは2009年に、クリストも2020年に亡くなりましたが、彼らが1961年から構想し続けてきた ”パリの凱旋門を包む” 作品は「LʼArc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021(包まれた凱旋門)」としてクリストの死後2021年にようやく実現しました。

今回の展覧会ではこの ”包まれた凱旋門” が実現するまでの過程に焦点を当てることで、クリストとジャンヌ=クロードの創造力の源やその生き様が浮き彫りにされています

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”包まれた凱旋門”

この作品は文字通りパリのエトワール凱旋門(通称 凱旋門)を包むものです。

パリの有名な建築物というとルーヴルとかいろいろあるでしょうけど、やはりエッフェル塔と凱旋門ですね。その凱旋門を包んでしまった作品です。

▲イメージとしてはこのような感じ。

布状のものでぐるっと包んで赤いロープで固定します。

あんな50mある高い建造物をどうやって包むかというと・・・

▲このように包んでしまいました。

シャンゼリゼ通りを始め12本の通りが交わる中心に建つエトワール凱旋門。いつも世界中から多くの観光客が訪れ、ド・ゴール広場(エトワール広場)のランナバウトは夜中までクルマがひしめきあっています。

そんなパリのど真ん中の凱旋門が包まれていたのは2021年9月18日から10月3日までの2週間。本来は2020年春の予定だったのがCOVID-19のパンデミックの影響で延期になり、その2020年5月にクリストが亡くなってしまいますがチームがその意志をついで2021年秋の実現にこぎ着けています

▲展示エリアの手前に展示されている若きクリストとジャンヌ=クロードが撮りあったお互いのポートレート。

若く未来への希望や野心に満ち溢れていた頃ですね。展示はこのあと彼らの創造的冒険の道のりを時系列に追いながら、60年に渡って構想しながら実現を観ることができなかった「LʼArc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021(包まれた凱旋門)」とその創造と制作の過程を資料とドキュメント映像で追体験し、最後にクリストからの無言のメッセージで終わるというかなり感動的な構成です

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LʼArc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021

クリストとジャンヌ=クロードの作品は展示後は撤去され壊されたりリサイクルに回されるので、作品は写真や映像、そして鑑賞者の記憶として残されるだけです。

今回はLʼArc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021の実現に至るまでの過程が丁寧に細部まで残されているので、その資料とドキュメントを鑑賞します。

▲クリストによるドローイング。

オブジェ(この場合は凱旋門)を包むとどうなるか、事前にドローイングを描きその通りに梱包するのがクリストとジャンヌ=クロードのスタイルです。

このドローイングは包まれた凱旋門とその先にエッフェル塔がどう見えるかのスタディのようです。

▲次は凱旋門のモックアップを作り、どう梱包するかのスタディ。

19世紀に建てられた貴重な歴史的建造物ですから、梱包作業中やその後の展示中に傷つけてはいけません。例えばレリーフの保護方法などもしっかり慎重に検討しています。

▲これは梱包作業が始まった実際の凱旋門。

今回の展覧会場では、この梱包作業の記録映像や写真が豊富に展示されています。

▲梱包された ”包まれた凱旋門” の記録映像。

これは会場内の大スクリーンで鑑賞します。

昼間の凱旋門、夜の凱旋門、クローズアップした凱旋門など様々なアングル、シチュエーションでの映像が続き、あたかもパリに行って包まれた凱旋門を観ているような感覚になります。

ちなみに私たちのお気に入りは包まれた朝の凱旋門。人が少なく朝の日差しが新鮮です。

▲”包まれた凱旋門” の屋上。

凱旋門の屋上は包まれている間も通常通り入場可能でした。エトワール広場で凱旋門を包む布に触り、さらに15ユーロ(約2,000円)で屋上から見ることもできたんですね。行きたかったですねぇ

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”包まれた凱旋門” の資料

”包む凱旋門” 自体はもう映像の中でしか観られませんが、その資料などは21_21の展覧会場で確認することができます。

▲凱旋門を包んでいた布と赤いロープと同じもの。

実際に梱包に使ったものは既にリサイクルに回されているそうですが、同じ工場で製造された残りが日本に運ばれ会場の仕切りを包んでいました。

また記録映像によると、ロープや梱包布は引張耐久試験をやったりして入念に安全性を確保しているようです。

素材はリサイクル可能なものが使われています。本当は触って重さや感触を確かめたいところですが、今回の展覧会ではこれも含めてタッチ禁止です。

▲21_21の会場内にいる案内のボランティアさん。

サスティナブルで超快適なオールバーズ(Allbirds)の”ツリーパイパー” シューズ、ウェストポーチ、シャツやビブスなどはパリのLʼArc de Triomphe, Wrappedで案内のボランティアが着ていたものと全く同じです。イッセイミヤケのもの。

このボランティアさんも実は展示物なんですね。

▲設計図も展示されています。

美術作品でもあるけど建築業者が施工していたりで建築物とあまり変わらないようです。

▲実物大のモックで梱包の最終確認をしているクリストの後ろ姿。このあとすぐ亡くなっているので、実際に凱旋門を包むところは観れなかったのですが、ここまで出来ているところを自分の目で見ることができたのでちょっと救われます。

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過去の作品

会場では過去の作品を紹介する映像が流れています。

▲これ日本です。

1991年に太平洋を挟んだ茨城県とカリフォルニアで同時に傘を立てるという「アンブレラ」プロジェクトの写真です。茨城では青い傘を1,340本、カリフォルニアでは黄色い傘を1,760本立てるというプロジェクトでした。

このプロジェクトには現代美術アーティストのタムラサトルもアルバイトとして参加し、傘を立てていたそうで鉄柱が重かったと回想しています。さらに、クリストとジャンヌ=クロードのプロジェクトに対するスタンスに感動し大きな影響を受けたことも吐露しています。

そのタムラサトルの個展「ワニがまわる」は21_21からも近い国立新美術館で2022年7月18日まで開催されています。観覧料無料ですから ”包まれた凱旋門”展と併せて訪問するのも良いと思います。

▲これはコロラド州の「ヴァレー・カーテン」。

1971年(失敗)と1972年(成功)にインスタレーションが行われた有名な作品です。

▲1985年にパリで行われた「梱包されたポン・ヌフ」。

これも非常に有名な作品ですね。2週間の会期中に300万人の見物客が押しかけたそうです。これがあったから凱旋門を包むプロジェクトにもパリジャン/パリジェンヌたちの支持が得られたのしょう

レオス・カラックスの「ポンヌフの恋人」という映画の影響もあって橋としては非常に有名になりました。

▲会場の最後にはクリストとジャンヌ=クロードのサハラでの写真を使った映像が小さいモニターで流れています。

クリストが指差す方向には何が待っているのか、この姿を誰に見て欲しいのか。風で砂が舞うカッコいい映像を観ながら考えてみたいです。

本当に小さいモニターですから見落とさないようにしてください。

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“包む凱旋門” の記録

今回の展覧会は動画撮影可能です。

21_21の実際の会場の様子はこちらの動画でどうぞ。

また、2021年に実現した ”包まれた凱旋門” は日本でもニュースなどで話題になりました。

YouTubeには多くの記録映像が残されていますので、クリストが最後に遺したこのプロジェクトをご覧ください。

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me ISSEY MIYAKE / AOYAMAでの特別展示

21_21でのクリスト展に合わせ、南青山のme ISSEY MIYAKEでも 《特別展示 写真家ウルフガング・フォルツがみた「クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”」》が開催されています。

2022年9月から2023年2月12日(日)までの開催。2022年8月に亡くなった三宅一生はクリストの友人でもあったのでクリスト展に併せてイベントを行いのはある意味当然ですね

▲この特別展示は50年以上にわたりプロジェクトの写真を撮り記録し続けているウルフガング・フォルツの写真展です。

エトワール凱旋門とシャンゼリゼ通りなどそこに繋がる12本の道路。中心に置かれているのは「包まれた凱旋門」。たぶんロープなどは実際に使用されたものと同じです。

床面に書かれている数字は写真の番号。壁に展示されている写真の番号と床の番号を照らし合わせれば、どの場所から撮った写真か分かる仕掛けです。

またここを訪れたら中心に置かれた ”包まれた凱旋門” を上から覗き込んでみてください。

▲me ISSEY MIYAKEの大きなガラス窓にもロープがかけられていて、そうこの店舗も梱包されているんですね。

▲外のみゆき通りから見たところ。梱包されているっぽいですね

昼間は気づきにくいので、9月15日の開幕以来ここを何度も通ったのにまったく気が付きませんでした!

クリストとジャンヌ=クロードの関連資料

クリストとジャンヌ=クロードの書籍は海外では沢山出版されているのですが、日本ではその多くが絶版だったり日本語版が出なかったりで寂しいものです。

Amazonでは英語版になりますが何冊も入手可能です。

会場でも何冊かは購入可能のようです

21_21 Design Sightの場所とアクセス

21_21 Design Sightはファッションデザイナーの三宅一生氏を中心に、国立のデザインミュージアムをというムーブメントの一環として設立されたデザインをメインにした美術館です。

東京ミッドタウン内のミッドタウン・ガーデンの一角に建っているので、東京ミッドタウンに直結する大江戸線六本木駅で降りてミッドタウン内を経由すればアクセスできます。

ミッドタウン内の施設なので、駐車場、駐輪場も用意されています。

▲そして21_12の建物は世界的な建築家 安藤忠雄による設計。

クリストとジャンヌ=クロードが創作活動を始めた最初の頃はまったく理解されず 「おかしなカップル」扱いされていたそうです。

二人が出会って間もない1961年には既に凱旋門を包む構想はあったそうですが、周囲に認められ実現するまで50年近い時間が必要でした。

”包まれた凱旋門” をクリストも見ることができませんでしたし、ほとんどの日本人もパリに出かけることすらできませんでした。でも ”包まれた凱旋門” の豊富な貴重映像を通じて追体験し、クリストとジャンヌ=クロードの冒険の人生を感じることができる展覧会です。会期も長いですし期間中にぜひ訪問して欲しい展覧会です。

クリストとジャンヌ=クロード ”包まれた凱旋門” 基本情報

イベント名 クリストとジャンヌ=クロード ”包まれた凱旋門”
会場 21_21 Design Sight
日程 2022年6月13日(月) 〜 2023年2月12日(日)
休館日 火曜日、年末年始(12月27日〜1月3日)
開館時間 10:00 – 19:00 (6月17日までは13:00開館)
入館料 一般1,200円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
撮影 写真撮影OK、動画撮影OK
予約 不要
施設名 21_21 Design Sight
住所 港区赤坂 9-7-6 東京ミッドタウン内
最寄駅 六本木駅、乃木坂駅
休館日 火曜日、年末年始(12月27日〜1月3日)
開館時間 11:00 – 19:00
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