日本を代表するミュージシャンである細野晴臣。古くは「はっぴいえんど」として、ワールドミュージックの先駆け的な70年代の一連のソロ作あるいは80年代には「YMO」として一世を風靡したりと、長年にわたり日本の音楽に大きな影響を与え続けてきました。
そんな細野晴臣のデビュー以来50年の軌跡を追い追体験するかのような展示会「細野観光 1960-2019 – 細野晴臣デビュー50周年記念展」が六本木ヒルズの展望台 ”東京シティビュー” で開催されているので初日から何回か通ってみました。
会期が1ヶ月と短いのでスケジュールをやり繰りして訪問してみてください。
▲これは10月6日(日曜日)の午後4時頃。当日券を買って会場入り口まで60分だそうです。
この混雑を避けるには平日か土日の午前中に行くのが良いでしょう。
ちなみにシティビューと細野観光は同じ場所のことで入場料1,800円です。またそのチケットで森美術館(塩田千春展示「魂がふるえる」を開催中)にも入場することができます。
ハリー細野こと細野晴臣
ハリー細野こと細野晴臣。この記事では細野さんと呼びますね。
「はっぴいえんど」から「キャラメル・ママ」、そしてソロになってからの70年代の諸作。国民的バンドとして世界的にも影響を与えた「YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)」、その後のアンビエントだったりワールドミュージックだったり、それぞれの時代に細野さんの音楽と出会いファンになった人も多いでしょう。
この細野観光ではどの時代を好きな人でも楽しめる内容になっています。
会場に入ってすぐ目に入る大きなポスター。
同じデザインのポスターやフライヤーをあちこちで見かけますね。
▲さらに奥に入ると観光地でよく見かける顔出しパネル。
あの「泰安洋行」のジャケットそのままです。
ここで記念写真を撮るのは細野ファンだけで、多くの観光客は素通りしてしまいますから、順番待ちもなく思い通りのポーズを決められるまで何度でもリテイクできます。
▲昼間の様子です。
▲初日は訪問する時間が遅く貸し出し時間に間に合わなかったので週末の昼間に出直して音声ガイドを借りてみました。
これ、絶対借りたほうがいいです。最初と最後に細野さんの肉声入り。星野源、高橋幸宏といったミュージシャンのガイドはもちろん、意外にも水原希子の細野ファンぶりも楽しく、展示と合わせると情報量2倍で楽しめます。
▲写真にあるように貸し出し時間が限られています。開館時間は夜22時までですが、音声ガイドの貸し出しは平日で17:30まで、週末でも19:30までです。
音声ガイドを借りるには早めに出かけることをお薦めです。
携帯電話のように耳に当てて聴くタイプの機械が渡されます。
細野観光
展望台フロアの東京シティビューのスペースで開催されている「細野観光」。
顔出しパネルの他に、中央にベースが展示されていたりするので、まずはその辺りをじっくり見学するところから始まります。
▲音声ガイドの貸し出しカウンター裏の展示物。
▲メインエリアへの入り口横の細野さんからのメッセージ。
▲このゲートをくぐって細野観光の始まり〜
ゲートの上にちょこんと座ってギターを爪弾く姿が可愛いですね。
▲最初は幼少期の写真やタイタニック号に乗り合わせたことでも有名なお祖父様の記事など。
子供の頃の写真を見ると、まさに50年代の東京の男の子という感じです。
上のマッチ箱は学生時代に通って集めた喫茶店やライブハウスのもの。
懐かしいお店はあるでしょうか?
▲会場内はいくつかの時代に分かれていて、その時代の共演ミュージシャンなど仲間の名前が掲示されています。
最初はアメリカ音楽への憧憬の時代。バッファロースプリングフィールドやモビー・グレープからの影響を受けながらも、でも最後にはジェームズ・テイラー(とセクション)くらいは俺たちでもできると豪語するまで成長した時代です。
▲パネルを読んでいるだけでも楽しく時間が過ぎています。
観光客にとってはあまり興味を惹かれる対象ではないので、基本的に空いています。
熱心に読んだり眺めている人がいれば、それはたいてい細野ファンですね。しかも意外と外国の人も多いので、日本在住の細野ファンなのだと思います。
▲こうした貴重な写真も何点か。
これは写真家野上眞宏の撮ったはっぴいえんど。
iPad用の写真集も出ています。
細野さんの愛機 弦楽器編
当然ですが細野さん愛用の楽器も大量に展示されています。
本当に愛機なものからどこかのレコーディングでちょっと使ったもの、歴史的なアルバムで使用されたものなど見る人が見るとおおぉーとなること請け合いです。
▲会場入口のスペースに組まれた展示台です。
上の方に置かれているのがオベーションのアダマス。
その下に見えるのはGRですね。
▲正面に見えるのは P-Project Pumps。
また上のオベーションが横から見えて特徴的なボディの形状が分かります。
▲これはたぶんタカミネのエレアコ。フレットレスベースです。
▲ミュージックマンのスティングレイ。
▲ギブソンのアコースティックギター。
1976年にロサンゼルスで購入。
キャプションには小坂忠さんとの面白いエピソードが。
▲真ん中のは最近愛用のギブソン。
1936年製だそうです。
▲グレッチのセミアコ。
▲ヤマハのMotion。
▲アンデスの民族楽器 ”チャランゴ”
清志郎に譲って、代わりにリズム・ボックスをもらったそうです。
▲ドイツの子ども用楽器メーカー、ゴールドマンのギタレレ(弦は6弦で大きさはウクレレ以上ギター未満)
▲ホノルルの骨董品屋で三味線として売られていた不思議な楽器。
「泰安洋行」に収録されている世紀の奇曲「Roocho Gumbo(ルーチューガンボ)」でも使われた、ある意味エポックメイキングな楽器。
▲エルクのベースの試作機。
▲1996年頃に新品で購入したレス・ポール。
▲ご存知フェンダーのジャズ・ベース
細野さんといえばこれですね。
▲こちらはフェンダーのプレシジョン。
レコーディングではこれとジャズベースを主に使っているという。
もともとはフレットレスを使って「ひこうき雲」や「扉の冬」を録音したけど盗難に遭ってこれを買い直したそうです。
▲ヘフナーのバイオリンベース。
別にポール・マッカトニーを意識したわけではなさそう。
▲同じくヘフナーのベース
▲オーダーメイドのスパニッシュギター。
▲ギブソンのアコースティックギター J-45。サンフランシスコで購入。
J-50だと思って買ったらJ-45だったそうです。
▲20世紀初頭のギブソンのマンドーラ(マンドリンの源流)。
▲日本のメーカ「タカミネ」のアコースティックギター。
▲今はない日本のメーカー「S.Yairi」のアコースティックギター。
ちなみに現存のメーカー「K.Yairi」とは別会社です。
細野さんの愛機 鍵盤、打楽器
細野さんはベーシストでもあるけど、それよりも音楽クリエイターとして、あるいは様々な音楽の紹介者、開拓者としての側面もあります。
70年代からポップミュージックの世界に広まったシンセサイザーやリズムマシンもそんな細野さんの興味の対象です。
▲ローランドのリズム・マシン TR-808、通称 ”ヤオヤ”。
世界中のアーティストに影響を与えまくったマシンです。
YMOの「BGM」から使われています。
▲同じローランドのリズム・マシン CR-8000。
清志郎にチャランゴを譲って交換にもらったのがこれ。
しかし、なぜ清志郎がこんな最新のリズム・マシンを持っていたのでしょう?
▲TR-909
型番からも分かる通り、TR-808の後継機。というより、デトロイトハウスで有名ですね。
▲ローランドのボコーダー VP-330。
名曲”Technopolis”の中で効果的に使われていますね。
▲ヤマハのデジタルシンセサイザー DX-7。
世界初のフルデジタルシンセであり、この後のシンセサイザーやもしかしたら音楽や業界構造までも変えてしまった歴史的な名機です。
▲ローランドのポリフォニックシンセ Jupiter-8。
坂本龍一も使っていましたが、あれは細野さんのマシンだったのかな?
▲これはProphet-5。アナログポリフォニックシンセサイザーです。
これも世界的な名機。たしか教授も持っていたように思いますが・・・
▲最初期のサンプラーであるE-mu Emulator(イーミュー エミュレータ)。
機材も貴重ですが横に見える8インチフロッピーディスクも貴重。鋤田正義や奥村靫正の声が収録されていて、ずっと行方不明だったもの。
今回の展示会の資料を探している過程で偶然発掘されてそうです。
▲ホーナーのボタン式アコーディオン。キャプションにもあるようにザディコでよく使われます。
細野さんは、沖縄〜ハワイ〜ニューオーリンズ〜カリプソ〜レゲェと続く南方志向の音楽を探求した冒険者の一人なんですよね。
細野観光その他の展示
楽器やパネルなどの他に、細野さんの蔵書や大量のメモ、ノートなども展示されています。
蔵書を眺めると彼がどういうところから影響を受けてきたのか、特に70年代の尖った人たちがどういうものに興味関心を寄せていたかが伺えて面白いですね。
実際展示されているノート類(撮影禁止)をずっと読み込んでいる細野ファンが大勢いました。
音楽とその背景にある歴史や文化に対する考察などが書かれていて、そうした大量の文化的引き出しから細野さんの音楽が来ているんだということがよく分かります。
▲横尾忠則の「歌うシエヘラザード」と「ハーレム・ミュージシャン」
細野さん自身が所有しているようです。
▲これは白金のスタジオの写真パネル。ほぼ実物大です。
いくら見ても飽きないですね。
▲Tin Panのアーチスト写真に映っていたスーツケース
▲大きな時代にごとに展示ブースが分けられていますが、でもどこと取っても細野晴臣。
どの時代、どの作品も出てくる音は違っても通底する細野晴臣は変わらないんですよね。
▲最後の方にある木製の卵型カプセル。
ここは2人づつ入って細野晴臣の音楽を聴くことができます。
▲360度上から下までスピーカーで埋められ、40年前から最近までの細野サウンドが流されています。
2,3分で係員さんから順番を譲るように言われちゃうので、全部聴くには何度も並び直す必要があります。
▲雑誌でのマーティン・デニーとの対談。
YMOのコンセプトが「マーティン・デニーのようなエキゾチックサウンドをクラフトワークがディスコビートで演る」だったので、念願の対面です。
マーティン・デニーの代表曲「Firecracker」はYMOがファーストアルバムの「Yellow Magic Orchestra」でカバーしていますね。
▲そして最後は細野晴臣のイラストでお別れです。
本人のサインが展覧会開幕前日の10月3日付けで書かれています。
ということで、細野晴臣ファンはもちろんYMOファンあるいは日本のロックファン、シティミュージックファン、どんな人でも楽しめる展覧会「細野観光」を駆け足で紹介しました。
11月4日までという短い会期なので見逃すと大変です。六本木の近くまで来たらぜひ足を運んでみて欲しいです。
細野観光 1969 – 2019
六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー
会期:2019年10月4日(金) 〜 11月4日(月)
開館時間:10:00 – 22:00 (入場は 21:30まで)