シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝
六本木の六本木ヒルズ53Fの「森美術館」ではブラック・アートの旗手シアスター・ゲイツの日本での初めてとなる個展「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」が開催されています。
シカゴのサウスサイド地区を拠点に、陶芸や彫刻のみならず、音楽やパフォーマンスさらには建築まで幅くジャンル横断的に活動しているシアスター・ゲイツは、20年前から日本の常滑にも足繁く通い日本の工芸作品職人たちが生み出す「民藝」とアメリカのアフロ系アメリカ人のサブカルチャーを融合した「アフロ民藝」というコンセプトを生み出しました。この展覧会ではそのアフロ民藝を具現化した数々のインスタレーションやシアスター・ゲイツの代表作までを堪能できます。
現代アートや民藝のファンだけでなく、アメリカのブラックカルチャーに興味がある人にもおすすめの、端的に言えば超おすすめの展覧会です。
▲会期は2024年4月24日(水)から9月1日(日)まで4ヶ月半の長い会期です。
GWから夏休み期間にも重なりますから。その時期に東京や六本木を訪れる予定があるなら「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」も訪問してみてはどうでしょうか。
PR
写真撮影と鑑賞時間について
この展覧会も基本的に写真撮影も動画撮影もOK。ただし動画撮影は1分以内に制限されています。
また《ヘブンリー・コード》という作品前で行われるパフォーマンスは写真も動画も撮影禁止になっています。
フラッシュ使用禁止、三脚や自撮り棒の使用禁止といった点はいつも通りです。特に暗い部屋での映像作品は意図せずフラッシュが炊かれてしまうことがあるので、事前にフラッシュがオフになっていることを確認しておきましょう。
動画が2本合わせて20分ほどありますが、普通なら全部で1時間ちょっとで鑑賞できるボリュームです。しかし、テキストがメインの作品があったり観客体験型というか鑑賞するのに時間がかかる作品もあるので、可能なら2時間ほど時間を取って臨みたい展覧会です。
《ヘブンリー・コード》とパフォーマンス
江戸時代の僧侶、木喰上人(もくじきしょうにん)が彫った和歌の神様「玉津嶋大明神」の木像から始まる展覧会の最初の見どころは《ヘブンリー・コード》というインスタレーション。
▲ハモンドオルガンB-3とレスリースピーカー7台による作品。レスリーが7台も並んでいるのは世界でもここだけです。
ハモンドオルガンはアメリカの教会でよく使われるもの。レスリースピーカーは内部にファンが内蔵され音を撹拌し、ウォーンという特徴的な音が出るスピーカー。ハモンドと組み合わせて使われることが多いです。
木製のベンチが置かれていて、ここに座って常に流れているハモンドの音を聴く作品です。
そしてこれ、アメリカの教会を模したレイアウトです。ここで牧師さんが聖歌隊をバックに説教すればほとんどゴスペルです。
▲ということで、5月以降の毎週日曜日の午後2時から5時まで、オルガン奏者によるパフォーマンスが行われます。演奏されるのはたぶんゴスペルです。
また4月24日から28日までの5日間はシアスター・ゲイツとそのバンド「The Black Monks」による演奏が行われました。
実際にそのパフォーマンスを体験しましたがハモンドオルガンとボーカルによるゴスペルパフォーマンスで素晴らしいものでした。もしパフォーマンスに遭遇できたらブラックカルチャーの力強さをぜひ体験してみてください。
ブラック・ライブラリー&ブラック・スペース
シアスター・ゲイツは作品制作やパフォーマンスだけでなく、ブラックカルチャーへの取り込み自体もアートとして表現しています。
▲その典型が「ブラック・ライブラリー&ブラック・スペース」。
過去十数年、シアスター・ゲイツが収集してきた黒人の文化や歴史に関連する主に書籍類がアート作品として展示されています。
手前の棚に収まっているのは黒人向けの雑誌のアーカイブ、奥に見える本棚には書籍類が展示されています。
▲雑誌を読むことはできませんが、それ以外の書籍は観客が自由に手に持って閲覧することができます。
▲ソファに座ってどんな書籍が置かれているか手にとってみましょう。
▲ライブラリーの隣にはソファーとテーブルがあり、一部の雑誌を読むことができます。
写真のこれは「Ebony」という黒人中産階級向けの雑誌。
60年代から大学を出た高学歴の黒人が増え、公民権運動や「Black Is Beautiful」の掛け声などにより社会的地位も向上するなどして所得も増えアメリカの繁栄を享受できるようになりました。
さらにBLM(Black Lives Matter」運動により実はそれは幻影だったのかもという自省が出てくるわけですが。
▲また、同じ展示室にはシアスター・ゲイツがシカゴで展開してきた建築プロジェクトを振り返るパネルも展示されています。
アフロ・アメリカンのコミュニティを大切にし、そのルーツをリスペクトし、現代でも残る問題を反映した作品づくりをするシアスター・ゲイツ。映画界のスパイク・リーの現代アート版とも言えるアーティストです。
写真は《避け所と殉教者の日々は遥か昔のこと》という6分31秒の映像作品の一部。
シカゴの聖ローレンス教会が取り壊された際にゲイツのバンド、The Black Monksが行ったパフォーマンス映像です。
もう一本は《嗚呼、風よ》という、これもThe Black Monksのメンバーによるヴォーカルパフォーマンスの映像です。歌う曲のタイトルは「嗚呼、風よ」。11分57秒の曲です。
PR
ブラックネスと年表
展示されているのは民藝作品やゲイツのインスタレーションだけでなく、ゲイツの作陶作品やコンセプチュアルアートの代表作も展示されています。
左に並んでいるのは常滑で今回の展覧会のために作陶した《ドリス様式神殿のためのブラック・ベッセル(黒い器)》という作品、右の壁に見えるのは《7つの歌》という大作です。
屋根にタールを塗る職人だった父親から教わった技術を制作に用いる「タール・ペインティング」シリーズの一つです。
日本と常滑、アメリカ、アメリカの黒人社会、そしてシアスター・ゲイツ個人の重要なできごとが年表としてまとめられています。
歴史がどうつながり、過去が現在や未来にどう影響するのか、そしてそれらの関連性を可視化したものです。まさにコンセプチュアルアート。
アフロ民藝
第展覧会の最後は《アフロ民藝》というセクション。
▲アフロ民藝というコンセプトに影響を与え、形作ってきた先人たちへのリスペクトを込めた作品《香老舗 松栄堂 香時計》。下のブロンズ像と壁のパネルの2つで一つの作品です。
マーカス・ガーベイ、アンジェラ・ディヴィスといった黒人解放運動の闘士、ゴスペルの父トーマス・ドーシーやエリザベス・キャトレットといった黒人アートの先駆者、柳宗悦や河井寛次郎それに千利休など民藝を主唱者やその先駆者の名前が並んでいます。
DAVE – アメリカに奴隷制度が存在した時代の陶芸職人デイヴィッド・ドレイク。会場内に彼の作品が展示されています。
GARBEY – ジャマイカの黒人運動指導者、マーカス・ガーベイ。レゲエでもお馴染み
ANGELA DAVIS − 黒人活動家アンジェラ・デイヴィス。釈放運動にはジョン・レノンも参加。
THOMAS DORSEY – ニューオーリンズのミュージシャン、トーマス・ドーシー。ゴスペルの父
CATLETT – アメリカの女性黒人彫刻家でアーティストのエリザベス・キャトレット
YANAGI – 日本の民藝運動の主唱者、柳宗悦
KANJIRO – 日本の陶芸家で民藝で活動した河井寛次郎
HAMADA – 日本の陶芸家で民藝で活動した濱田庄司
RIKYU – たぶん日本の茶人、千利休
MOKUJIKI – 江戸時代の僧侶、木食上人
ARTE POVERA – イタリアの芸術運動「貧しい芸術」。日本でいったら「もの派」。
こうやって具体的に名前が並ぶと「アフロ民藝」のイメージがより分かりやすくなるかもしれません。
▲シカゴのブラックカルチャーの源の一つ、ミシシッピ川への思いを込めたメッセージもありますがこれはシアスター・ゲイツ本人のものではないそうです。
でもミシシッピデルタからアメリカが工業化する過程でシカゴへと向かったブラックカルチャーの流れを表現しているものでしょう。
▲アフロ民藝のルーツを表現する造語「TOKOSSIPPI」。
TOKONAME(常滑)とMISSISSIPPI(ミシシッピ)だからTOKOSSIPPIなんですね。
▲そして最後はシカゴのクラブに並ぶ常滑の徳利とDJブースというインスタレーションです。
▲DJブースには実際にターンテーブルが2台。オーティス・レディング(Otis Redding)やコモドアーズ(The Commodores)、それに写真のシュープリームス(The Supremes)の本物のLPレコードが並ぶという本格的なもの。
アンプなども本物でしたから、もしかしたら今後DJパフォーマンスが行われるかもしれません。
それにしても、ブラックカルチャーと民藝活動を取り混ぜ、通奏低音として黒人音楽が常にあるという構成は唸らざるを得ないですね。すごい。
日本の民藝、アメリカのブラックカルチャーに既存の西洋的な価値観に対するサブカルチャーだという共通点を見出し、それぞれの歴史や美意識をつなぎ合わせて未来へ繋げていくというコンセプトですから、これは世界中が注目するわけです。本当に凄い才能です。
現代アートファン、民藝ファンだけでなくもっと多くの人に見てもらい展覧会です。
関連企画
また、この《シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝》と同時に、世田谷美術館でも《民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある》展が開催されています。
世田谷美術館のはアフロ民藝と違って民藝そのものがテーマの展覧会です。
両方の展覧会を巡って共通点を探したりするのも楽しいと思います。
PR
ミュージアムショップ
展覧会を堪能したら次はミュージアムショップですね。
ただし現時点では発売日未定。発売されたら国内であれば送料無料で送ってもらえます。
▲上段の左はナンシー・ウィルソンの「Music On My Mind」、その右はリカルド・サントス楽団の「Holiday In Nippon」。モンドですねぇ。
下段の左はアート・アンサンブル・オブ・シカゴの「Fanfare for the Warriors」。シカゴの前衛ジャズですからシアスター・ゲイツとも接点がありそうです。右はエリック・ドルフィーとマル・ウォルドロンの「The Quest」。
リカルド・サントス以外はソウル、ジャズといった黒人音楽。行くたびにディスプレイされているレコードが変わっているので、実際に売れているのだと思います。
PR
チケット情報、アクセス
チケット購入方法
森美術館のチケットの入手方法は2つ。
一つは六本木ヒルズのチケットサイトで購入する方法。最初に会員登録をするかヒルズIDが必要なのが面倒ですが、いったん登録すればHILLS APP(ヒルズアプリ)を使った入場ができるので便利です。
iPhone用のiOS版ヒルズアプリ(App Store)
Androidスマホ用のAndroid版ヒルズアプリ(Google Play)
もう一つは六本木ヒルズ森タワー3階の美術館・展望台チケットで購入する方法です。ただし当日枠に空きがある場合だけです。
あと森美術館の「MAMC(メンバーシッププログラム)」に入れば予約不要で入館することができます。森美術館を年に2回以上訪問するならMAMCへの入会も検討してみてください。
森美術館へのアクセス
まず六本木ヒルズへのアクセスですが最寄り駅は日比谷線六本木駅。六本木ヒルズ側改札(広尾側)から出れば直結です。
大江戸線六本木駅を利用の場合はいったん地上に出て六本木ヒルズに向かいます。
また渋谷駅から都営バスの都01系統で新橋行きに乗り「六本木駅前」で降りればほぼ向かいが六本木ヒルズですし、「RH01六本木ヒルズ行き」なら文字通り六本木ヒルズ直行です。利用しやすいルートを使ってください。
▲六本木ヒルズに着いたら蜘蛛みたいなオブジェ「ママン」がある66プラザに出て大屋根広場を目指してください。
映画館や大屋根広場の手前の小さい丸い建物(ミュージアムコーン)が美術館入り口です。週末ならたいてい行列しているか、付近でここだけヒルズのスタッフが立っているのですぐに分かると思います。
▲そしてミュージアムコーンから3Fに上ってブリッジを渡り、チケット・インフォメーションで入館手続きします(紙チケットの場合)。
予約してある場合はゲートでQRコードをかざしてそのまま入館し直通エレベーターでまず52Fへ上がります。
▲ここからさらにエスカレータで上がった53Fが森美術館です。
ロッカーは52Fに設置されているので、大きな荷物などはロッカーに入れてから美術館は向かいましょう。100円ですが荷物を取り出す時に返却されます。
2024年9月1日まで4ヶ月以上の会期です。長いように思えますが、閉幕が近づけばどんどん混み合うのがこうした展覧会です。
少しでも空いている早い時期に訪問してシアスター・ゲイツのアフロ民藝をゆっくり鑑賞してみてください。
シアスター・ゲイツ展 アフロ民藝 基本情報
イベント名 | 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために |
会場 | 六本木ヒルズ内 森美術館 |
会期 | 2024年4月24日(水) 〜9月1日(日) 会期中は無休 |
開館時間 | 10:00 – 22:00 (火曜日のみ17:00まで) |
入館予約 | 事前予約制 |
入館料 | 大人 1,800円、高校大学 1,300円、中学以下無料、65歳〜1,500円 (平日 オンライン料金) 土・日・祝や窓口購入は別料金 料金詳細はこちらから |
撮影 | 原則可能。動画は1分以内。撮影NG作品には掲示あり。 |