国立新美術館の片隅に建つ別館は二・二六事件に関与した旧帝国陸軍麻布連隊の兵舎の一部

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国立新美術館 別館

六本木・乃木坂の国立新美術館と言えば、黒川紀章設計の曲線を強調したガラスのカーテンウォールがカッコいい本館をイメージすると思いますが、実は別館と呼ばれるもう1棟があります。

あまり気にしていない別館ですが実は歴史的にも建築的にも貴重な建物です。さらに誰でも入場できる無料の展示コーナーもあって、そこでは別館に関する資料がひっそり展示されているのです。

▲青山霊園や青山公園側の西門から美術館へ続く「森の小道」を歩いていくと、右手にもガラス張りの建物があることに気づくと思います。それが「国立新美術館 別館」です。

これだけ見ると美術館の管理棟か学芸員のための研究棟かと思いますよね。

でもこの別館は2つの顔を持つ建物なのです。

一つは国立新美術館の別館。そしてもう一つは旧日本帝国陸軍の兵舎跡です。

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Two side of 別館ビル

もともとは1928年(昭和3年)に旧帝国陸軍第一師団歩兵第三連隊、俗称「麻布連隊」の兵舎として建設されたものです。

国立新美術館を建設する際にその一部が保存され、内部も改装されたうえで別館として利用しているのです。

▲国立新美術館の前庭から見た別館。

右側はガラス張りで新美術館と同じような外観、左側は兵舎だった頃を偲ばせるコンクリートの外観。

まさに二面性です。

旧麻布連隊兵舎

まずは兵舎としての別館を見てみましょう。

▲新美術館に隣接する政策研究大学院大学側から見た別館。軍隊っぽいですねぇ。

残されているのは兵舎の正面玄関の両脇にある通用口の部分だと思います。

二・二六事件(昭和11年のクーデター未遂事件)で決起した兵隊さんたちもここから出入りしたのでしょうか。

なお、政策研究大学院大学の敷地へは出入り自由で、新美術館別館の前まで入ることができます。でもこちら側から別館の中へ入ることはできません。外から建物を見学するだけです

別館展示コーナー

新美術館の本館と向き合う側には展示コーナーが設置されています。

▲麻布連隊の兵舎時代、戦後の東大生産技術研究所時代の資料が展示されています。

観覧は無料。開室しているのは美術館休館日以外の平日。つまり月、水、木、金曜日の11時から18時までです

▲展示コーナーです。えっと、これだけです。

向かって左の壁面には兵舎時代の、右の壁面には東大生産研時代の資料が展示されています。

すっかり改装され、以前の様子を伺わせるような痕跡は見当たりません。

▲その代わり、展示コーナーに設置されたモニターで貴重な内部写真を見ることができます。

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展示コーナーにみる兵舎時代

展示コーナーの資料をいくつか紹介します。

▲兵舎時代の正門を撮った写真です。

正門の奥に見えるのは兵舎の正面玄関。今の新美術館の前庭辺りになるはずです。

新美術館の別館として保存されているのは、その正面玄関の向こう側の湾曲している辺りだと思います。

▲兵舎と連隊としての駐屯地としての全体図です。写真で上が北になります。

「日」の字を象った兵舎は地下1階地上3階。旧陸軍としては初めての鉄筋コンクリート造です。

これで見ると正門の位置は今の新美術館の正門とほぼ同じです。左上が青山霊園。その下が青山公園、さらに下が赤坂プレスセンターという位置になりますね。

▲南側から正面玄関を見たところ。

1928年ですからアールデコの時代。なので合理性、機能性を極限まで求められる軍隊の施設なのにアールデコ調です。しかも庭園美術館より古いのです。

このように、二・二六事件に関与した麻布連隊の兵舎という歴史と、日本の近代合理主義建築として重要という点を鑑み、一部が保存されることになったようです

東大生産技術研究所

戦後の10年間は米軍に接収されていましたが、その後返還されて東大の研究所が移転してきて1962年から「東京大学生産技術研究所」として使用されていました。

でも一部は引き続き在日米軍が「赤坂プレスセンター」として今でも使用しているのは周知の通りです。

▲この写真は東大生産技術研究所時代に南側から空撮したもの。撮影は2001年とあるので、生産技術研究所が移転する年。移転前の最後の記念に撮影したのでしょう。

乃木坂トンネルが見えたりしているので、今の場所との違いが分かりやすいのではないでしょうか。20年ちょっと前までの国立新美術館周辺はこうだったのですね。

国立新美術館本館での展示

この麻布連隊の兵舎の模型は新美術館の本館に、もっと大型の模型で展示されています。

▲場所は本館1F東側。つまり六本木側の正面入口から右手にある休憩スペースの奥です。

このように大きなガラスケースに入った建物の模型を見かると思いますが、これが麻布連隊の兵舎を再現したものです。

▲これは兵舎の北側から見たところ。

今の乃木坂駅の辺りということになります。

建物の模型もですが、ジオラマもけっこう手が込んでいます。

▲これは南側の正面玄関の向かって左脇。

たぶんこの階段がある湾曲した部分が新美術館別館として保存されている部分だと思います。

地下1階地上3階ということですが、この模型や今の別館の造形からすると地下といっても半地下だったのですね。建築当時はまさか帝国の首都が空襲されるとは考えもしなかったのでしょう。

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国立新美術館別館の場所とアクセス

場所は国立新美術館の敷地内、本館と向かい合うように建っています

六本木側の正門から入ったら本館入り口のコーンの先に別館と展示コーナーの入り口があります。

兵舎時代の外観を見るなら政策研究大学院大学の敷地に入る必要があります。原則出入り自由ですが、時々諸事情で立入禁止になっている場合があるので、入構時は注意してください。

乃木坂駅からの場合は美術館直結の6番出口ではなく5番出口から出て、新美術館の西門から入って森の小道を歩けば途中右手に別館があります。

黒川紀章設計の本館に見とれてつい忘れがちですが、昭和の歴史と日本の建築史を遺す貴重な建物である別館も一度はじっくり見ておきましょう

国立新美術館 別館 基本情報

名称 国立新美術館 別館
住所 港区六本木 7-22-2
最寄駅 乃木坂駅、六本木駅
竣工 2006年
開室 毎週 月、水、木、金曜日
時間 11:00 〜 18:00
料金 無料、予約不要
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