現代芸術家、杉本博司が和歌の伝統技法をアートに取り入れてみた展覧会「本歌取り 東下り」@松濤美術館

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松濤美術館「杉本博司 本歌取り 東下り」

渋谷の松濤美術館で2023年9月16日(土)から11月12日(日)まで現代芸術家、杉本博司の展覧会「本歌取り 東下り」が開催されています。

和歌の伝統技法「本歌取り(ほんかどり)」を作品制作に援用するというコンセプトの展覧会です。最初は2022年に姫路市立美術館で「本歌取り」展として開催されたもので、今回は東国の東京へ下っての開催です。そのため展覧会タイトルも「本歌取り 東下り(あずまくだり)」と改称されているのです。

▲開催期間は9月か11月末の約2ヶ月間ですが、10月15日(日)までの前期と10月17日(火)からの後期に別れていて、一部作品の展示替えがあります。

開館時間は10時から18時までですが毎週金曜日は夜20時まで開館しています。芸術の秋のシーズンにアート巡りとして訪問するのはもちろん、仕事帰りの美術鑑賞にも最適です

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大作が並ぶ地下1階展示室

この展覧会は松濤美術館としては珍しく撮影可能です。おそらく杉本博司自身の意向だと思います。入館時に受付で注意書きが配布されるのでそれに従いマナーを守って撮影しましょう。

今回の展覧会は地下1階の展示室から始まりますがここは大作が目白押し。

▲10月17日からの後期では「甘橘山 春日社遠望図屏風」が展示されています。

見ての通り、杉本博司の遺作である江之浦測候所の春日社を撮ったもの。江之浦測候所の緑、春日社の鮮やかな朱色、そして相模湾という組み合わせには惚れ惚れします。

▲前期の展示では入り口に姫路城の屏風図が展示されていました。

本歌に相当するのは狩野永徳の「安土城図屏風」です。
(前期だけの展示で既に甘橘山春日社の図屏風と入れ替わっています)。

▲葛飾北斎の「富嶽三十六景 凱風快晴」を本歌とした新作「富士山図屏風」。

今回の展覧会で初公開です。

本歌のコンセプトを理解し、そこにオリジナリティや時代性や批評性を加味して本歌と比肩する作品にしなかればならないので作家も大変ですが鑑賞者も知識と教養を求められます。

▲これは奈良春日大社の藤棚が満開になる直前の姿を捉えたもの。杉本博司の江之浦測候所に春日社が御霊分けされている縁もあり、春日神社に写真を奉納しようと春日神社本殿を撮影したときのものです。

この辺りの奇譚は作品キャプションで紹介されています。他の奇譚はこんな書籍もどうぞ。

▲富士山と春日大社は並んで展示されています。

▲歴史の歴史シリーズから「歴史東西習合図」。

スターリン、ド・ゴール、マッカーサー、ビスマルク、ダーウィン、マルクス、ニコライ二世、トロッキー、チャーチル、マルセル・デュシャンなどの顔が見えますね。

▲地階展覧室では写真のネガポジ法を発明したタルボットの初期写真を本歌取りしたもの、2023年11月9日(木)に野村万作などにより上演される ”杉本狂言” の本歌にあたる室町時代の絵巻「法師物語絵巻」などが展示されています。

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味わい深い作品が並ぶ2階展示室

2階での展示室も大作、新作など多くの作品が展示されています。

▲壁一面の作品は「愛飢男(四十伍文字)」。

あいうえおが漢字混じりで並んでいる作品です。始まりが ”愛に飢える男” と書いて ”あいうえお” と読ませる洒落っ気が杉本博司です。

そしてこれは本歌取り。

▲本歌の方は前期に展示されていた「いろは歌(四十七文字)」。

ひらがなのいろはを本歌に、漢字混じりであいうえおで返しているのです。これは前後期見ないと分からないですね。

これらは暗室で印画紙に筆で描いた作品で、最近銀座のギャラリー小柳で展示されている「火遊び」シリーズと同じ技法が使われています。

▲同じ技法で印画紙に書かれた「火」と「狂」。

▲下に置かれているのはメソポタミア文明のシュメール人が残した世界最古の文字、楔形文字。杉本博司によると文字は ”記憶の証拠” として発明されたもの。そして写真は ”歴史の証拠” として発明されたものと捉えるのだそうです。

そう言われるとさっき地階展示で見た「歴史の歴史」の意味がよく分かってきます。

掛け軸になっているのは松濤美術館を設計した建築家の白井晟一(しらい・せいいち)による書で、”吐くほどの深い嘆き” を意味する「瀉嘆(しゃたん)」と書かれています。

白井晟一が晩年に手掛けた邸宅「桂花の舎」が杉本博司の江之浦測候所に移築されることになっていて、その建築模型も展示されています。

一時は1億8千万で売り出されるも買い手が現れなかった「桂花の舎」ですが、無事江之浦測候所で第二の人生を歩むことになったようで何よりです。

▲下に置かれているのは「厘細録 ブロークン・ミリメーター」。古墳の石棺に葬られた人物の首飾りだった管玉(くだだま)を使用して制作されています。

この作品の本歌はアメリカの彫刻家でミュージシャンで、あのルー・リードとバンドを組んでいたこともあるウォルター・デ・マリアの「ブロークン・キロメーター」です。

掛け軸は「カリフォルニア・コンドル」。杉本博司の「ジオラマ」シリーズのうちの1点で、サンフランシスコのカリフォルニア科学アカデミーにあった書割の前に据えられたカリフォルニア・コンドルの剥製(を撮影したもの)です。

本歌は中国南宋時代の画家・牧谿(もっけい)の「叭々鳥図(ははちょうず)」。

▲アメリカの前衛音楽家、ジョン・ケージがキッチンペーパーに描いた水彩画。

禅に強い関心を持っていたケージの意を汲んで55枚の水彩画を10枚づつ5セットに編集したもののうちの1セット。

まずはこれを本歌として、それの和訳と杉本博司による解釈(あるいは蛇足)が展示されています。

とにかくどれもこれも情報量が濃い!

本歌とその背景、そして杉本博司の解釈、さらにインスタレーションとしての意味まで考えるのでいくら時間があっても足りません。

▲ということでアイルランドの世界的な影響力を持つロックバンド、U2の2009年のアルバム「No Line On The Horizeon」。

ジャケットは見ての通り杉本博司です。このような分かりやすいものも展示されていてホッとします。

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映像作品が2点

2階展示室前のロビーでは映像作品が2本、上映されています

▲1本は2013年の杉本文楽のローマ公演の記録「曾根崎心中 付り観音廻り」。8分ちょっとの作品です。

もう1本は「Noh Climax 翁 神 男 女 狂 鬼」。2022年に姫路城などを舞台に撮影された映像作品「Noh Climax」のダイジェスト版で約5分。

両方を見ても15分に満たない時間ですから全部編鑑しておきましょう

関連グッズと関連資料

最後に販売されている図録とグッズを紹介します。

▲トートバッグの図柄は「富士山図屏風」をモチーフにしています。1,980円。

▲姫路美術館での「本歌取り」と松濤美術館での「本歌取り 東下り」。

▲さらに図録を2冊セットにした特装版も用意されていて、この題字は杉本博司自身の手書き。つまり一冊づつ異なります。

定価55,000円で100部限定。10月1日から注文開始だそうです。

もちろん価格3,850円の通常版も引き続き販売されています。

頭がパンクしそうなくらいの情報量で杉本博司の世界が迫ってくる「本歌取り 東下り」展。半券を持っていくと次回は2割引で入場できるリピーター割引もありますから、一度見て咀嚼して、もう一度見に行けばさらに理解が進むかもしれません。

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松濤美術館の場所とアクセス

松濤なので最寄り駅でいえば京王井の頭線の神泉駅になります。

入り組んだ住宅街の中を通ることになりますが、案内が充実しているので迷うことはないと思います。神泉駅から徒歩5分です。

渋谷駅から閉店した東急本店前まで行って ”松濤文化村ストリート” を500mほど歩くのが一番わかり易い松濤美術館への道順でしょう。

また美術館に駐車場はありませんが周辺にはコインパーキングがいくつもあるのでクルマでも大丈夫です。

あと隈研吾が設計したトイレがある「鍋島松濤公園」もすぐ近くです。

杉本博司 本歌取り 東下り 基本情報

名称 杉本博司 本歌取り 東下り
会場 渋谷区立松濤美術館
会期 前期 2023年9月16日(土)〜10月15日(日)
後期 2023年10月17日(火)〜11月12日(日)
入館料 一般 1,000円、大学生 800円、高校生・65歳以上 500円、小中 100円
土・日曜日、祝休日及び夏休み期間は小中学生無料
毎週金曜日は渋谷区民無料
予約 予約不要

渋谷区立松濤美術館 基本情報

施設名 渋谷区立松濤美術館
住所 渋谷区松濤 2-14-14
最寄駅 井の頭線神泉駅、渋谷駅
休館日 月曜日
開館時間 10:00 – 18:00 (金曜日は20:00まで)
入館料 展覧会による。金曜日は渋谷区民無料
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